12・朝起きたらメス猫になっていた主人公と、朝起きたらオス猫になっていた友人。
自慢ではないが、あたしは朝の目覚めはいいほうだ。いつも目が覚めたとたんにしゃっきりと覚醒している。だけど、今朝は何か違う。視界がぼうっとかすんでいる気がして目をこすろうとしたら、その手が真っ白な猫の前足だった!
えーーーーーっ!?と叫ぼうと思ったんだけど、口から出たのはにゃあーーーーーっ!?という叫びだった。だってあたし今猫なんだもん!!
ここは自分の部屋のベッドの中だ。自分が小さくなってしまったのでやけに大きく見えるけど、ピンクの布団も天井の模様もなにもかもがあたしの部屋だ。体のサイズが縮んだので、パジャマから空蝉の術みたいになって抜け出しているようだ。
ええっと、昨日はえっちゃんが泊まりに来ていたんだっけ、と思い出してあたしのベッドの横に並べて敷いたお布団を見てみると、そこには真っ黒な猫が一匹丸くなって寝ている。・・・あたしが猫になったということは、これは、もしかして、やっぱり、どう考えても・・えっちゃん・・だよね。
あたしは現実から少しでも逃避してみようと思ったんだけど、ムダな努力だったみたい。あたしの視線を感じたのかピクリとひげを震わせた黒猫はパチリと目を開けて、布団の上で大あくびと伸びをしてからポンッとベッドに飛び乗ってきた。
黒猫はあたしに「にゃにゃんにゃにゃん?(気分はどう?)」と聞いた。
「にゃにゃんにゃにゃん、にゃんにゃ?(もしかして、えっちゃん?)」とあたしが聞くと、黒猫はうなずいた。(うなずくことは猫の体でもできるんだな)
「にゃんにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃにゃにゃっ!?(どうして、こんなことに!?)」とあたしはパニクっているのに、黒猫えっちゃんは「にゃあ、にゃにゃにゃにゃにゃんにゃ(まぁ、そういうこともあるさ)」と動じていない。
さては、こいつ何か知っているな?と問い詰めようとしたあたしだけど、気がついたら黒猫えっちゃんはあたしの尻尾の付け根あたりの匂いを嗅いでいる。いくら猫でも、と羞恥心で身をよじったあたしの体の上に、いきなり黒猫えっちゃんがのしかかってきた。これってマウントポジションというやつ? しかもあたしの下半身の敏感な部分にナニか当たっている・・えっちゃん、もしかしてメスじゃなくてオス猫なのぉ!?
その瞬間、目の前が蛍光ピンク色にぐにゃりとゆがんだ気がして、・・・気がつくとあたしは人間に戻ってすっ裸でベッドにうつぶせになっていて、同じくすっ裸のえっちゃんがあたしの上にいた。きゃーーー!
あたしはさっきとは別の意味でパニックして悲鳴を上げそうになったんだけど、えっちゃんの体はあたしを離さない。えっちゃんの腕があたしの鎖骨に巻きついている。やわらかなもの−−えっちゃんの胸だ!が背中に当たっていてすごく気持ちがいい。えっちゃんの舌がゆっくりとあたしの首筋を伝う。そのあまりの気持ちよさに、あたしの脳みそは考えることを放棄した。
* * *
気がついたら夕方だった。あたし、裸のまま、えっちゃんと抱き合って寝てた。いくらベッドの中とはいえ、友人と裸で抱き合っている感触に動揺してしまう。と、あたしがもぞもぞ動いたのを感じたのだろう、えっちゃんが目を覚ました。
「かわいかったよぉ」えっちゃんはあたしに向かってニヤリと笑う。あたしは顔が真っ赤になるのを感じながらえっちゃんから顔を背けて壁のほうを向いてみる。
「三毛猫だったの、自分ではわかんないでしょ?」「えっちゃんは真っ黒だったけど・・えっ!? えっちゃん驚いてないの?」思わずあたしのほうが驚いてえっちゃんの顔をまじまじと見ちゃった。
そうしたら、えっちゃんのさっきまでニヤけていた顔が少し申し訳なさそうになって「あのね、昨日の夜、寝る前に飲んだサプリね・・」と言い始める。あの‘サプリ’は実は学年一の変人と言われる中野茜が作った「翌朝10分間だけ猫になる」薬だったんだって。確かにあいつならそんなものを作りかねないなぁ。
「なんで翌朝かっていうと、人から猫への変化は体積を小さくするからかなり苦しいんで、寝ている間にその変化が起きる仕様にしたんだってさ」
あーそーですか。今朝のあの出来事はえっちゃんがあたしにアヤしげな薬を飲ませたせいだったのね! 視線にできる限りの殺気を込めてえっちゃんの顔を見たんだけど、えっちゃんはえへへと笑いながら「おかげでこんなこともできちゃったし」とあたしの唇にそっとキスした。なんだかキスに丸め込まれちゃった気もするんだけど、こんなことでもなければあたしたち友達のままだったろうし、・・・この困ったやつを恋人にするのも悪くないんじゃないかって思い始めたあたしってバカ?
猫になってしまったお話、昔々に読んだ カフカの「変身」を思い出しました。
10分間という短時間でしたが、違う生き物になるのも楽しいかもしれませんね。
私なら、やっぱ「鳥」になって空を飛んでみたいです。